外国人建設人材の安全衛生教育をどう設計するか──雇入れ時教育・特別教育・職長教育と、言語の壁の埋め方【2026年版】
制度・法律
外国人材の受け入れが決まると、社内の準備は在留資格と住居に集中する。安全衛生教育は「入場前に一式やる」という前提で、既存の資料をそのまま使うことになる。日本語のテキストを配り、スライドを映し、最後に「分かりましたか」と聞く。全員がうなずく。署名をもらい、教育記録を残す。書類上は完了している。
問題は、この記録が事故のあとに読み返されることである。労働基準監督署の調査で問われるのは、教育を実施したかどうかだけではない。その教育が、本人が理解できる方法で行われたかどうかが見られる。日本語のテキストで日本語を読めない人に教育した記録は、実施の証拠にはなっても、理解の証拠にはならない。
そして令和6年4月、雇入れ時の安全衛生教育の省略規定が廃止され、全業種で8項目すべての実施が必要になった。この記事では、外国人建設人材を受け入れる企業が、法定の安全衛生教育をどう設計し、言語の壁をどう埋め、理解をどう確認するかを整理します。
この記事の要点
法定の安全衛生教育は、雇入れ時教育・特別教育・職長教育の3層に分かれる。層ごとに根拠条文も対象者も違う。
令和6年4月1日から、雇入れ時教育の省略規定が廃止され、全業種で8項目すべてが必須になった。
厚生労働省は「マンガでわかる働く人の安全と健康」を11言語で提供している。母国語の教材は自作しなくてよい。
「分かりました」という返答は理解の証拠にならない。実技と再現で確認する設計にする。
令和7年法律第33号により、労働者と同じ場所で働く個人事業者等が労働安全衛生法の保護の対象および義務の主体として位置づけられ、令和8年1月1日から段階的に施行されている。
安全衛生教育は「やったか」ではなく「伝わったか」で見る
安全衛生教育の目的は記録を残すことではなく、危険を回避できる状態を作ることである。したがって設計の起点は、受け手が何語で、どの読解水準で、どんな作業経験を持っているかにある。
日本語能力試験N4の人に、日本語のテキストで「墜落制止用器具のフルハーネス型は、6.75メートルを超える箇所では原則として使用しなければならない」と読ませても、内容は残らない。同じことを、図と実物と実演で伝えれば残る。教育の質は、教える側の熱量ではなく、受け手の母語と読解水準に合わせた媒体を選んだかどうかで決まる。
厚生労働省も、外国人労働者数の増加に伴い外国人労働者の労働災害が増加傾向にあるとして、安全衛生教育や労働災害防止の内容を確実に理解してもらうことが重要だとしている。ここでの「確実に理解してもらう」は、実施記録の話ではない。
令和6年4月、雇入れ時教育の省略規定がなくなった
雇入れ時の安全衛生教育は、令和6年4月1日から全業種で8項目すべての実施が必要になった。それ以前は、事務職中心の業種などで一部の項目を省略できたが、労働安全衛生規則の改正によりこの省略規定が廃止された。
雇入れ時教育の項目は次のとおりである。
番号 | 項目 |
|---|---|
1 | 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法 |
2 | 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法 |
3 | 作業手順 |
4 | 作業開始時の点検 |
5 | 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防 |
6 | 整理、整頓及び清潔の保持 |
7 | 事故時等における応急措置及び退避 |
8 | その他当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項 |
建設業ではもともと8項目すべてが必要だったため、この改正で建設現場の実務が直接変わったわけではない。変わったのは、同じ会社の中で現場に出ない部門を持っている場合である。設計部門やBIM部門、事務部門に外国人材を受け入れる場合も、8項目の教育が必要になる。建設会社の技術系オフィス職を技人国で受け入れる場合、この点を見落としやすい。
法定教育は3層ある
安全衛生教育は、誰に対するものかで3つの層に分かれる。層を混ぜると、必要な教育が抜ける。
層 | 根拠 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|---|
雇入れ時・作業内容変更時教育 | 労働安全衛生法第59条第1項・第2項 | すべての労働者 | 上記の8項目 |
特別教育 | 労働安全衛生法第59条第3項 | 危険・有害な業務に就く者 | 業務ごとに定められた学科・実技 |
職長等教育 | 労働安全衛生法第60条 | 新たに職務につく職長等 | 作業方法の決定、労働者の配置、指導・監督の方法など |
特別教育の対象になる業務は多岐にわたる。建設現場でよく出てくるものとしては、足場の組立て等の業務に係る特別教育、高所作業車の運転(作業床の高さ10メートル未満)、小型車両系建設機械(機体重量3トン未満)の運転、研削といしの取替え等、酸素欠乏危険作業、フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業などがある。自社の作業内容と照らして、どれが必要かを一覧にしておく。
外国人材を受け入れる場合に問題になりやすいのは、特別教育の実技である。学科は翻訳資料で補えるが、実技は実際に手を動かして確認する。ここで通訳を入れないと、危険な誤解がそのまま残る。
職長等教育は、将来的に現場を任せる設計をしている場合に必要になる。育成の時間軸の考え方は外国人の施工管理者を採用する実務で扱っている。
建設現場に固有の教育──新規入場者教育とKY
建設現場では、法定教育に加えて、元請が行う新規入場者教育がある。現場ごとの危険箇所、動線、緊急時の集合場所、その日の作業間の調整といった、現場に固有の情報を伝えるものである。
外国人材の場合、ここでつまずくパターンが2つある。
第一に、新規入場者教育が日本語のみで行われ、内容が残らないまま入場してしまう。元請が用意する資料は日本語であることが多いため、下請側で母国語の補足資料を用意するか、通訳できる職長を同行させる必要がある。
第二に、KY(危険予知)活動やツールボックスミーティングが形式化する。KYは本来、その日の作業から危険を自分で言語化する活動だが、日本語で意見を述べられない状態では、うなずくだけの参加になる。指差し呼称の唱和はできても、危険の予知はできていない。
対応としては、KYシートを母国語併記にする、その日の危険源を写真で示す、本人に「今日いちばん危ないのはどこか」を指で示させる、といった方法がある。言葉でなく行動で確認する設計に変えるのが実務的である。
なお、現場入場にあたってはCCUS(建設キャリアアップシステム)の登録が求められることが多い。登録の要否と手続きはCCUS(建設キャリアアップシステム)と外国人材で整理している。
労働災害の現在地
厚生労働省が令和8年5月27日に公表した令和7年の労働災害発生状況は次のとおりである。
区分 | 令和7年 | 前年比 |
|---|---|---|
死亡者数(全産業) | 700人 | 46人・6.2%減(過去最少) |
休業4日以上の死傷者数(全産業) | 135,333人 | 385人・0.3%減 |
建設業の死亡者数 | 214人 | 18人・7.8%減 |
全産業の死亡者数は過去最少を更新している。一方で建設業は、全産業の死亡者数のおよそ3割を占めており、業種としての危険度は依然として高い。死傷者数はほぼ横ばいで、休業を伴う災害の減り方は緩やかである。
この数字が示しているのは、教育と設備の積み上げで死亡災害は減らせているが、日常的な負傷は減っていないということである。外国人材の受け入れで新たに増える論点は、この日常的な災害のほうにある。慣れない作業、指示の取り違え、危険の言語化ができないことによる見落とし。いずれも死亡災害よりも先に、休業災害として表面化する。
言語の壁は、教材の自作で埋めなくてよい
母国語の安全衛生教材は、厚生労働省が無償で提供している。「マンガでわかる働く人の安全と健康(教育用教材)」は、日本語、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語(フィリピン)、クメール語(カンボジア)、インドネシア語、タイ語、ミャンマー語、ネパール語、モンゴル語の11言語に対応している。
自社で翻訳資料を作る前に、既存の公的教材でどこまで賄えるかを確認する。翻訳の品質を自社で担保するより、公的機関が用意した教材を使うほうが確実で、更新も追える。
そのうえで、自社の作業に固有の部分だけを補う。補い方は次の順序が扱いやすい。
優先順位 | 手段 | 適する場面 |
|---|---|---|
1 | 公的機関の多言語教材 | 一般的な危険源、保護具、応急措置 |
2 | 写真・イラスト・実物 | 自社の現場に固有の危険箇所 |
3 | 実演と反復 | 手順、保護具の着脱、機械の操作 |
4 | やさしい日本語 | 日常の指示、掲示、注意喚起 |
5 | 通訳・翻訳 | 特別教育の実技、事故時の聴取 |
やさしい日本語は、翻訳のコストをかけずに伝達精度を上げる手段として有効である。一文を短くする、二重否定を使わない、漢語を和語に言い換える(「使用禁止」ではなく「つかってはいけません」)、指示を1文に1つだけ入れる。この4点を徹底するだけで、掲示と口頭指示の通り方は変わる。
現場で必要な日本語の水準そのものについては建設技術者を「技人国」で受け入れる実務でも触れている。
「分かりました」を理解の証拠にしない
理解度の確認は、口頭の質問ではなく、行動で行う。「分かりましたか」に対する肯定の返答は、日本語話者どうしでも理解の証拠にならないが、外国人材の場合はとくに、質問の意味が分からないままうなずくことが起こりやすい。
確認の方法は3つある。
第一に、再現させる。保護具の着脱、機械の始業点検、緊急時の避難経路を、口頭ではなく実際にやってもらう。第二に、逆質問にする。「今から作業を始めます。最初にやることは何ですか」と聞き、本人に言わせる。第三に、選択式のチェックで記録に残す。母国語の設問で、危険源と対処を選ばせる。
記録に残す場合は、何語で教育したか、通訳の有無、確認方法を教育記録に書いておく。「日本語のテキストを配布し、口頭で説明した」という記録と、「母国語教材を使用し、通訳を介して実施、実技で確認した」という記録では、事後に問われたときの意味がまったく違う。
制度別に見た、教育の責任は誰にあるか
安全衛生教育の実施義務は、原則として雇用している事業者にある。ただし建設現場では元請の関与が重なるため、制度ごとに整理しておく。
受け入れの形 | 雇入れ時教育 | 特別教育 | 新規入場者教育 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
技人国(直接雇用) | 自社 | 該当作業があれば自社 | 元請 | 現場に出ない職種でも8項目は必要 |
特定技能「建設」(直接雇用) | 自社 | 自社 | 元請 | 受入計画の認定要件と併せて確認 |
育成就労(2027年4月〜、直接雇用) | 自社 | 自社 | 元請 | 監理支援機関の支援対象にも入る |
派遣(設計・施工管理・BIM等) | 派遣元 | 実際に業務を行わせる側 | 元請 | 建設業務そのものは派遣禁止 |
特定技能と育成就労は直接雇用が前提であり、派遣は使えない。制度の全体像は特定技能「建設」の受け入れ、何から手をつけるかと育成就労で建設の受け入れはどう変わるかで扱っている。
一方、設計・施工管理・BIMといった技術系の業務は派遣で受け入れられる。この場合、雇入れ時教育は派遣元が行うが、現場に固有の危険については受け入れる側が伝える必要がある。派遣禁止の範囲は「建設業に派遣は使えない」は本当かで整理している。
2026年からの改正──個人事業者等が保護の対象に入った
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)により、労働者と同じ場所で働く個人事業者等が、労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として位置づけられた。施行は令和8年1月1日から段階的に進んでいる。
建設業でこの改正の影響が大きいのは、一人親方が現場に多く入っているためである。これまで「労働者ではないから安全衛生法の対象外」として整理されていた層が、同じ場所で働く以上は保護の対象になる。外国人材の受け入れとは直接の関係がないように見えるが、現場全体の安全管理の設計を見直すきっかけになる。
自社が元請として現場を管理している場合は、入場している個人事業者等をどう把握し、どこまでの情報を提供するかを、あらためて整理しておく必要がある。
よくある質問
Q. 雇入れ時教育は何時間やればよいのですか
法令で時間数は定められていません。定められているのは8項目の内容です。したがって時間ではなく、8項目それぞれについて、本人が理解できる方法で実施したかどうかで判断されます。令和6年4月1日から省略規定が廃止され、全業種で8項目すべてが必要になりました。現場に出ない設計・事務部門で外国人材を受け入れる場合も対象になるため、見落とさないでください。
Q. 日本語のテキストで教育しても法令上は問題ないのですか
実施したという形式は満たしても、教育の目的は達成されません。厚生労働省は、外国人労働者に安全衛生教育や労働災害防止の内容を確実に理解してもらうことが重要だとしています。事故が起きたあとの調査では、本人が理解できる方法で行われたかが問われます。母国語教材は厚生労働省が11言語で提供しているため、自作する必要はありません。
Q. 特別教育は外国語で実施してよいのですか
学科部分を母国語や翻訳資料で行うことは可能です。実技については、通訳を介するか、母国語が通じる指導者が担当することが望ましいとされます。特別教育は危険・有害な業務に就くための教育であり、誤解がそのまま事故につながります。実施した言語と通訳の有無を教育記録に残しておいてください。
Q. 元請が行う新規入場者教育は日本語だけで足りますか
現場に固有の危険を伝えるという目的から見ると足りません。元請が用意する資料は日本語であることが多いため、下請側で母国語の補足資料を用意するか、通訳できる職長を同行させる運用が現実的です。動線、危険箇所、緊急時の集合場所は、言葉より図と現地確認で伝えるほうが確実です。
Q. やさしい日本語はどう書けばよいのですか
一文を短くする、二重否定を使わない、漢語を和語に言い換える、1文に指示を1つだけ入れる。この4点が基本です。「使用禁止」より「つかってはいけません」、「立入禁止区域内への進入を禁ずる」より「ここに はいらないでください」のほうが伝わります。掲示物と口頭指示の両方に適用してください。
Q. 理解度はどう確認して記録すればよいですか
口頭で「分かりましたか」と聞くのではなく、行動で確認します。保護具の着脱や始業点検を実際にやってもらう、作業手順を本人に言わせる、母国語の選択式チェックに答えてもらう、の3つが実務的です。記録には、実施日と項目に加えて、使用した言語、通訳の有無、確認方法を書いておいてください。事後に問われたときの意味が変わります。
Q. 派遣で受け入れる場合、安全衛生教育は誰が行いますか
雇入れ時の教育は雇用している派遣元が行います。ただし現場に固有の危険については、実際に業務を行わせる側が伝える必要があります。なお建設業務そのものは派遣禁止であり、派遣で受け入れられるのは設計・施工管理・BIMなどの技術系業務です。これらの業務では特別教育の対象作業に該当しない場合も多いため、まず自社の職務を仕分けてください。
Q. 令和7年法律第33号の改正は、自社に関係しますか
現場に一人親方などの個人事業者等が入っている場合は関係します。労働者と同じ場所で働く個人事業者等が労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として位置づけられ、令和8年1月1日から段階的に施行されています。元請として現場を管理している場合は、入場している個人事業者等の把握と情報提供の範囲を整理しておいてください。
まとめ
安全衛生教育は実施記録ではなく、受け手が理解できる方法で行われたかどうかで評価される。媒体は母語と読解水準に合わせて選ぶ。
令和6年4月1日から雇入れ時教育の省略規定が廃止され、全業種で8項目すべてが必須になった。現場に出ない設計・事務部門も対象である。
法定教育は雇入れ時・特別教育・職長等教育の3層。特別教育の実技は通訳を入れないと危険な誤解が残る。
厚生労働省は「マンガでわかる働く人の安全と健康」を11言語で提供している。教材は自作せず、自社固有の危険だけを補う。
「分かりました」は理解の証拠にならない。再現、逆質問、母国語の選択式チェックの3つで確認し、使用言語と確認方法を記録に残す。
令和7年法律第33号により、労働者と同じ場所で働く個人事業者等が保護の対象および義務の主体になった。令和8年1月1日から段階的に施行されている。
淡路グローバルゲートウェイ(AGG)は登録支援機関として、外国人建設人材の受け入れにあたっての生活オリエンテーションや母国語での支援を行っています。あわせて技人国での施工管理・設計・BIM技術者のご紹介と派遣も行っていますので、無料相談フォームからお気軽にお問い合わせください。
監修者
Naoya Mitani /淡路グローバルゲートウェイ(AGG) 事業統括責任者
インドITエンジニアの可能性に着目し、AGGのIT人財部を設立しました。事業統括責任者として、エンジニア派遣事業の戦略立案と実行を担っています。


